マウス(筆者撮影)
コンピュータに出会ってから、すでに20年余り。以来、毎日のように「ポチポチ」してるが、クリックという何気ない行為をめぐって、これほどまでに全世界で白熱した争奪戦が、繰り広げられられているとは思いもよらなかった。知らなかった世界を覗いてしまったといったらよいだろうか。今回は、本ウェブサイトを開設するにあたり、ウェブサイトの設計に携わったことで見えてきた、情報化社会の一端に触れてみたい。
生活様式を変えたインターネット空間※1
いま使っているコンピュータに、自分がインストールしたソフトウェアを挙げてみよう。ワードプロセッサ、表計算、プレゼンテーション、画像閲覧、画像加工、CAD、GIS、電子メール、ウェブブラウザ、などなど。大半は、別にコンピュータがなくてもできたことである。つまり、手作業で行っていたことを電子化したに過ぎない。コンピュータの登場以前に存在していなかったのは、ウェブブラウザぐらいではなかろうか。
様々な事物の電子化への移行に立ち会ってきている世代にとって、作業を電子化することは、ソフトウェアの使い方を覚えなければならない、といった苦痛を伴うこともままあったが、それにも増して、電子化することの利点は大きかった。それは、飛躍的にお金が必要なくなったこと、時間の短縮ができたこと、空間の節約につながったことである。
最も代表的なのは、写真だ。かつて、現地調査に赴く時には、大量のフィルムを抱えて出かけた。100本なんてざらだった。36枚撮りで換算すれば、わずか3,600枚。いまなら、32ギガバイトのSDカード1枚で事足りる。もちろん電子化の初期費用がかかるとはいえ、毎回の調査でフィルムを購入する手間も、お金も必要ないし、もちろん現像代もかからない。その上、写真を撮ったその日に、良し悪しを確認できるし、整理もはじめられる。いいことづくめである。
この電子化という作業は、上記のように個人的に多くの利点をもたらしているが、もっと大局的に見れば、全世界の至るところで日々構築されている、インターネット空間の整備に向かって行われているといっても過言ではない。たとえ、それを意識していなくとも。
どこでも情報収集可能なインターネット空間
インターネット空間が整備されつつある中で、これは画期的だなと感じたことが2つある。一つは、店舗ごとの商品価格が開示されるようになったこと。もう一つは、図書館の蔵書が見られるようになったことである。
実際の商品を手に取って、色味や大きさ、動作などを確認することは実店舗でしかできないし、楽しいひと時であるが、商品の購入を決断して、価格調査のために複数店舗を歩き回るのは、億劫きわまりない。それでも金銭的に余裕はないけど、時間があった学生時代には、少しでも安いものを探すことに労力を惜しまなかった。
そもそも、自分で使用するものを、自分のお金で処理するのであれば、話は早い。しかし、これが会社で必要なものを、会社の経費で購入するとなると、話はややこしくなってくる。立替払いが認められるのであれば比較的楽だが、それが会社の備品ともなってくると、たとえ立替払いしたとしても、その価格が適正だったのかを証する書類をあわせて提出する必要も生じてくる。いわゆる「相みつ」ってやつだ。
日本で数社しか扱っていない商品であるならば、何も迷わず、その数社から見積をとればいい。が、消耗品の枠では収まらない、ちょっと性能のよいカメラなどとなると、販売店がありすぎて困る。さらに、ポイントがもれなくついてきてしまう店舗などがあると、どうやって計算すればいいのやら、パニックになること必至だ。実店舗に足を運ばなくとも、また電話をかけることもなく、商品の実売価格を知ることができ、PDFで手軽に見積が得られるウェブサイトの登場は、備品や消耗品購入の作業負担を大幅に軽減することとなった。
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次に、図書館の件。研究の世界に足を踏み入れた当初、図書館で本を探すには、著者名や書名、あるいは図書分類にしたがって作成された、カード目録と呼ばれるカードを1枚1枚めくることから、はじめなければならなかった(図01)。いずれのカードにも、書誌情報に加え、その図書館における請求記号が付されており、それによって排架場所がわかるようになっている。目的とする本がその図書館にあるのか、ないのかは、カードを全部めくり終えて、はじめてわかる。しかも、ある語句を手掛かりに、部分一致する全ての本を拾い上げるなどという芸当は、できる術もなかった。今となっては、隔世の感がある。
そんなわけだから、図書館の蔵書目録が電子化され、次々とウェブサイトで公開されていったことは、調べものをする上で、日増しにその便利さを実感していくこととなった。研究で欠かせない先行研究を調べたり、調査研究と関係する文献を渉猟したりする作業が、格別に変わっていった。まず、図書館で検索する必要がなくなった。図書館では、予め検索し、目星をつけていた書籍をひたすら請求し、手にしたら目を通し、必要であれば複写、必要がなければ返却という流れになる。事前に、書店に在庫があるのか、古書だといくらで手に入れられるのかといったことを調べておくことで、必要箇所があまりにも多い時には、購入の検討も即断できる。近い将来、図書館に足を運ぶ必要はなくなっていくだろう。
いずれにも共通するのは、インターネット空間につながっているコンピュータが手元にあれば、その場で情報収集が可能となり、結果、現地に滞在しなければならない時間が減ったということである。現在では、「情報格差」という言葉は、インターネット空間の利用可否で使われているが※2、近い将来、検索能力の有無が、情報格差を生み出していくことになるだろう。
インターネット空間へと誘う検索エンジンの役割
ところで、京大式カードって、ご存知ですか。京大式カードについては、すでに多くの人がいろいろな立場から紹介しているが※3、要は、思いついたことを、思いついた時に書き留めておくための厚手の用紙のことである。厚手の用紙、すなわちカードであることが味噌で、記述したカードを並べ替えることによって、思考を整理したり、新しい発想につなげたり、文章化したりすることを容易にする。
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なぜ、京大式カードを持ち出したのかというと、上述したカード目録を含め、カードに記された情報の断片を手掛かりに、欲しいものや未知のものを探すという行為が、インターネット空間に星の数ほど散在しているウェブページを、検索語句で抽出していく作業と重なるからである。インターネット空間において、検索語句という断片的な情報を手掛かりに、利用者が欲しているであろう情報を抽出してくれるのが、検索エンジンとなる。
検索エンジンを図書館に例えるならば、入口付近にあるカードケースということになろう(図02)。今や見たこともない人も多いかもしれないが、大量のカード目録が、五十音順などで整然と格納されている。さて、検索エンジンを無償で提供しているのが、グーグルやヤフー、マイクロソフト(ビイング)などである。つまり、これらの運営会社は、インターネット空間におけるウェブページの目録を作成しているといえる。
図書館の目録は、各図書館の裁量で、採用された分類法にもとづいて作成されている。この点、ウェブページの目録作成も同様に、運営会社が独自に検索システムを構築している。ただ、決定的に異なる点がある。ウェブサイトの中には、検索エンジンの運営会社に広告料を支払っているものがあるのだ。そこに、図書館のような公共性は存在しない。だから、同じ語句で検索をかけても、検索エンジンによって、抽出されるウェブページは全く異なってくる。もちろん、検索システムのプログラムの違いも大きいが。
その点、グーグルの登場は画期的だった。いつから使いはじめたのか、覚えてないが、使ったが最後、一瞬にして虜となり、現在に至る。何が凄いって、利用者が欲している情報を的確に抽出し、上位に並べてくれるからだ。加えて、広告であることが明確に示されており、誤って広告をクリックしてしまうことなどなかったし、画像のついたどぎつい広告も皆無だった※4。
グーグルが検索エンジンに絶対的な自信をもっているのは、グーグルの初期画面からうかがい知れる。グーグルの初期画面は、ロゴと検索窓しか表示されないのである※5。他社と比較すれば、その差は歴然とする。ニュースやら、広告やらが所狭しと画面に並んでおり、開いた瞬間、何を検索しようとしていたのか、忘れそうだ。明らかに、検索以外のクリックに利用者を導いている。
何はともあれ、数多あるウェブページへの入口となるのが、検索エンジンなのである。
素人広告代理店の氾濫
ところで、画期的に登場したものの多くは、時間の経過とともに、使いにくくなる。二段階認証などは、その典型といえるだろう。構造の欠陥をついて、悪さをする人がいるから、次第に規則やら、規制やらでがんじがらめになっていく。また、情報技術の分野に関しては、既得権益を根こそぎ奪いかねない技術が多く、新たなビジネス・モデルに転換できない既存の勢力から圧力がかけられることも多いと感じている。技術の進歩とは一体何か、を考えさせられる。
グーグルの検索エンジンもまた、確実に使いにくくなってきている。これまでに、使いにくくなったなと感じたことは、数回ある。いずれも、規約などが改定された直後だったと記憶している。その都度、検索エンジンを変えようかと、他社の検索エンジンを試してみた。が、依然としてグーグルに追随するような検索エンジンを開発しているところは皆無で、広告主の顔色ばかりうかがっているのではないかと思わせる検索結果に失望し、未だにグーグルから足を洗うに至ってはいない。
直近で、グーグルをやめたいと思ったのは、3,4年前のことだったと思う。検索をかけると、「〇×~選」だとか、「××まとめ」とかいうタイトルが上位に並び、開いてみると、素人丸出しのいけてないウェブサイト・デザインに、違和感のある変な目次、果ては読んだところで内容がない。中には、エロサイトばりに、広告リンクだらけのページもある。辟易とした。自ずと、タイトルに「選」「まとめ」があるものは、開かなくなった。すると、1ページで10の検索結果が表示されるページを、5,6ページめくらなければ、目的とするものが見つからないこともざらでなくなった。
振り返ってみると、これにはグーグルのサービスの改変が大きくかかわっていることが見えてきた。グーグルでは、ウェブサイトの運営者に、アドセンスと呼ばれる広告サービスを提供している※6。ウェブサイトの運営者がグーグルに申請して、許可されると、自身のウェブサイトにグーグルが提供する広告を張れるようになるという仕組である。
海外旅行中にちょっと調べたいことができ、携帯電話でグーグル検索をかけ、日本語のウェブページを開いたはずなのに、片隅に渡航先の現地の広告が表示されて驚いたことありませんか。そう、これがグーグル・アドセンスによるサービスで、グーグルが位置情報を取得し、その場所に合わせた広告を表示させている。もし、その広告がクリックされようものなら、グーグルからウェブサイトの運営者に広告紹介料が支払われる。これが、クリックの世界である。程度の差はあるが、多くのウェブサイトで採用されている。
このアドセンスの審査方法が、2016年3月くらいに変わったらしい※7。この時の改変で、きわめて大きな影響を与えたのは、「サブドメイン」での登録ができなくなったことである。どういうことかというと、アメブロとか、ライブドアブログ、はてなブログといった無料でブログを作成できるウェブサイトの利用者、すなわちブロガーが、アドセンスの申請をすることができなくなったという意味をもつ※8。裏を返せば、無料ブログをしながら、広告紹介料を稼いでいた輩が少なからずいたということである。
このくだり、歯切れが悪い文章で申し訳ない。というのも、ブログとは疎遠だったからである。その理由は、至って簡単で、読むに堪えられない駄文が多いことに尽きる。一時期、知人のブログを読んでいたことがあったが、1,2か月たった時に、なんでこいつのくっだらない私生活日記に付き合わなきゃいけないんだって我に返り、以来、ブログなるものには、原則、近づかなかった。同様の理由で、フェイスブックやツィッターなども基本的に見ない。
ここに至って、「~選」だとか、「まとめ」だとかは、かつて無料ブログ内に収まっていた素人作家たちが、無料ブログという「村」から飛び出し、新たなるクリックの世界を求め、インターネット空間で堂々と書きはじめた結果であることに気づき、検索結果の表示順に、妙に納得した。そのぐらい、クリックの世界は白熱しており、ブロガーたちは、より多くのクリックを求めて、検索結果の上位に表示されるよう、しのぎを削っているのである。
ところで、垢抜けないデザインのウェブサイトにはある共通点があった。大概、ページのどこかに丸にWのマークだったり、「WORDPRESS」といったロゴだったりが刻まれているのだ。「ワードプレス」とは、CMS(Content Management System)、いわゆるホームページ作成ソフトのことで、数あるホームページ作成ソフトの中でも、ブログ管理のソフトウェアから派生したこともあり、ブログに強いらしい※9。
ここに書いている諸々を調べる前は、てっきり、ウェブサイトを構築するのに、誰もが、手軽にウェブサイトを作成できる、画期的なソフトウェアが登場したのかと思っていた。しかし、2003年5月に発表されているところを見ると※10、他の理由を考える必要がありそうだ。ちなみに、本ウェブサイトの設計に携わる前は、垢抜けないデザインの原因が、ワードプレスにあると履き違えていたので、本ウェブサイトではワードプレスは用いていない。
さて、あくまでも推測に過ぎないが、グーグルが新たな政策を掲げた後に、無料ブログの村の住人たち、すなわちブロガーたちがとった行動を、時系列で整理すると次のようになろう。
・無料ブログ上で、クリックの世界に身を投じ、すでに収益を上げていたブロガーは、自らのウェブサイトを開設することを即決
・初期費用等の投資はかかるが、この行動がブログのネタになり、新たなクリックを生み出し、すぐにでも回収できることを確信
・レンタルサーバを借り、自らのブログサイト用に、「***.com」「***.jp」といった独自ドメインを取得
・ウェブサイトの制作も、ブログのネタになること必至なので、自ら制作することを決断
・ホームページ作成ソフトには、ブログから派生したという点に親近感を抱き、「WORDPRESS」を採用
・この一連の流れを、レンタルサーバやドメイン取得などの広告を張り付けたブログとして公開
・これを見た、まだ自らのウェブサイトを立ち上げてないブロガーが追随
こうした流れで、クリックの世界を知っているブロガーたちは瞬く間に、グーグルの政策に対応したのではないだろうか。グーグルは、わずか20年余りの会社であるが、今日では、グーグルがとる政策が、インターネット空間を激変させるといっても過言ではないようだ。
吹き荒れる孫引きの嵐
少なからず論文を書いてきた立場として、文章を書くにあたって、剽窃や盗用はもちろんのこと、孫引きにも気を遣う。孫引きとは、他人が引用したものを、原典を確認せずに、そのまま使うことである。
グーグルアドセンスでは、上述したサブドメインを禁止した時期に、審査も厳しくしたようである※11。面白いもので、こうした状況下では、「グーグルアドセンスの審査に通過するための〇つの方法」といった類の記事が跋扈する※12。いずれを見ても、「記事は〇本以上書け」「記事の文字数は最低でも1,000文字以上」「審査時にリンクは張るな」などなどといった、根拠のない眉唾ものの、似たり寄ったりのことが書いてある。素人作家が、審査に通ったことで天狗になり、裏も取らずに書き放題って感じだ。逆に、審査に落ちた輩は、悲しいかな藁をも縋る思いで熟読しているのだろう。実際のところは、グーグルが公表しない限り、闇に包まれている。
こうした記事が、さらに読みたくもない駄文記事をはびこらせる結果を招く。特に、文字数への言及には、頭を抱えた。「~選」「まとめ」という記事が、蔓延する理由だと直感したからだ。例えば、「〇×5選」として、5つの商品を取り上げた記事を作成する場合、「先輩」のいう1記事1,000文字以上にならって、記事を完成させるためには、1つの商品で200字ずつ書けば、条件が達成される。しかも、選んできた商品を、競合する他のウェブサイトとちょっとずつ変えれば、文章をパクってきたところで、ちょっとやそっとじゃわからない。そう考えれば、「~選」「まとめ」が素人作家たちに重宝される理由がよくわかる。こうした手法で、記事を量産し、クリック数を上げようとしているのではなかろうか。
ちなみに、これまでの経験から言うと、200字の概要をまとめられない人に、2,000字の原稿を書かせたところで、伝わる文章にはならない。同様に、発表時間が3分しかないから、自分の意図を伝えられなかったという人に、30分の時間を与えたところで、的外れなプレゼンテーションしかしない。つまり、文字数だけで内容の良し悪しを判断することはできないのだ。万に一つ、グーグルが文字数を判断材料としているのなら、グーグル帝国も終わりが近いだろう。
それにしても、自分にとって見るに値しないと思う記事でも、グーグル検索でそこそこ上位に表示される状況から、一定数の見ている人の存在に気づき、にわかに信じがたかった。そして、張られているリンクが、そこそこクリックされ、広告紹介料を得ているらしい事実に驚愕した※13。自分自身、他人の記事を読んで、例え、非常に参考になったとしても、そこに張ってあるリンクをクリックしたことが、ほとんどないからだ。どうしてもリンクを開きたい時には、新規に検索をかけるようにしている。なぜなら、安易にクリックするとやばい、というのはエロサイトから学んだからである。同時に、不可解な請求をされても動じなくてよいということもウェブサイトで知ったのだが。
本ウェブサイトにも、広告を張っているが、これは上記のことを確かめてみたいという思いからである。もちろん、張るからには大金が転がってくるのを夢見ていることに偽りはない。多くの記事で指摘されているのは、クリック率、すなわちウェブページの閲覧者数に対する広告のクリック回数の比率は2~6%程度、また、収益は、作成した1ページのウェブページが1万回見られると、1万円ほどの収入になるらしい※14。果たして、どのような結果となるのか、クリックの世界を体験してみたい。
ついでに書いておくと、税理士や社会労務士といった士業のウェブサイトなどでは、「解説!〇×」といったタイトルの記事が散見されるが※15、きちんと最後まで解説している記事は非常に少ない。冷静に考えれば、当然のことで、全部解説しちゃったら、自社のウェブサイトを熱心に読んでくれている顧客予備軍が、次の行動、すなわち問合せをクリックするとか、電話をかけるという行動に移ってくれないのである。結局、これらは自社の広告なのであって、ウェブサイトの運営者は、記事を読んで、もっと知りたいと思った読者からの連絡をひたすら待っているのだ。
情報化社会のビジネス・モデル
ついつい、快適だったインターネット空間を荒らされたという被害妄想から、ひたすらにクリックを求め、駄文を量産しているブロガーなる存在のことを書き連ねてしまった。が、この利用者にとっての些細な不愉快が、インターネット空間で主流となっているビジネス・モデルの一端なのだ。
このビジネス・モデルの売りは、根幹となるサービスを無償で提供する点にある。極端な言い方をすれば、本業では稼がないということになる。こんなことをされたら、本業で稼ごうとしている旧来のビジネスモデルは太刀打ちできない。だからこそ、理不尽な理由をつけて、既得権益が守られていると思われる事例も多い。
例えば、電話。インターネット空間が整備される過程で、全世界で急速に整備された情報通信網は、従来の電話回線を必要としなくなった。スカイプやライン電話を想像すれば、わかりやすい。しかし、おそらく従来の電話事業者の既得権益を守るために、スカイプなどからは110や119といった、緊急電話がかけられないという制約がかけられている※16。ある意味、消費者に対する脅しで、消費者は新しい技術の恩恵にあずかれていない。
では、インターネット空間で主流となっているビジネス・モデルとはどういうものなのか。
まず第一に、本業の優れたサービスを無償で提供することで、膨大な顧客を集める。そして、顧客の属性を細かく蒐集する。次に、その膨大な顧客情報を背景に、広告を募る。つまり、ここで収益化するわけだ。そして、広告に見合った属性の顧客を割り出し、潜在的な消費者だけにその広告を見せる。これが、グーグルのやり口だ。
広告で収益を上げるという、情報化社会以前から紙媒体で採られてきた、べたな収益モデルである。とはいえ、具体的な数値はわからないものの、大衆に向けて、闇雲に広告を発していた時代と比較すれば、広告到達率は飛躍的に向上したであろうことは、想像に難くない。つまり、ウェブページを訪れた閲覧者がどのような属性をもつのかを、蒐集した顧客情報から瞬時に判断し、最適解の広告を広告枠に表示するのである。当然、閲覧者が異なれば、異なる広告が同じ広告枠に掲げられる。これは、紙媒体では不可能だったといえよう。
このビジネス・モデルに対抗する術はあるのだろうか。的確に即答することはできないが、少なくとも、情報化社会における収益モデルを、考えなければならない時期に来ていることは間違いない。さもなくば、よいサービス、よい商品を提供すればするほど、情報化社会の新たなビジネス・モデルを実践している企業に乗っ取られてしまう可能性が高くなるだろう※17。
加えて、このビジネス・モデルのもう一つの特徴は、誰にでも参入を許可している点である。だからこそ、猫も杓子も、クリックを求め、ウェブサイトで広告代理店を開き、夜な夜な製品紹介などを書く。それは、ユーチューブなどの動画サイトにもいえることだろう。そして、それが、次第に社会の仕組を変える力になりつつある点は見過ごせない。昨今、多くの企業で副業が解禁されつつあるが※18、その背景には間違いなく、このクリックの世界が関係していよう。インターネット空間には、従来の雇用とは異なる働き方を見いだせる可能性も秘められているのである。また、漠然と行ってきた電子化の作業が、突然、収益を生み出すようになるかもしれない。
さて、情報化社会において、様々な事物が電子化していくにしたがい、どう社会が変わるのか、あるいは変わらないのかという問題は、現代社会を考える上で、常につきまとってくる問題となるだろう。なので、この問題に関する記事に、目印として「情報化社会への展開の狭間」という記事分類をつけておくことにしよう。
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※18―「副業解禁、主要企業の5割 社員成長や新事業に期待:本社調査 労務管理など課題も」『日本経済新聞 電子版(有料記事)』株式会社日本経済新聞社、2019.5.20(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45004150Z10C19A5MM8000/、2020.5.11閲覧)。
閉じる※17―記憶に新しいところでは、ポータルサイトを運営するヤフー株式会社にZOZOが買収された(「ヤフー、TOBでZOZOを子会社化へ」日本経済新聞、2019.9.12、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49711370S9A910C1I00000/、2020.5.11閲覧)。買収された経営者の意向はともかく、買収された事実に変わりはない。また、片付けで有名な近藤麻理恵氏に関連する会社が、インターネット通信販売業の楽天株式会社に買収された(栗林史子「楽天が『こんまり』関係の会社を買収 社内の片付けも」『朝日新聞DIGITAL』株式会社朝日新聞、2019.8.2、https://www.asahi.com/articles/ASM8263JLM82ULFA046.html、2020.5.11閲覧)。なお、同じニュースを、日本経済新聞のウェブサイトでは楽天の報道発表(楽天株式会社「楽天、近藤 麻理恵さんのプロデュースを手掛ける KonMari Media, Inc.とパートナーシップを締結」2019.8.2、https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2019/0802_02.html、2020.5.11閲覧)をそのまま転載している(「楽天、KonMari Media社とパートナーシップを締結」『日本経済新聞』株式会社日本経済新聞社、2019.8.2、https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP516039_S9A800C1000000/、2020.5.11閲覧)。朝日新聞の記事も、この楽天株式会社の報道発表をもとにしているようであるが、報道発表では朝日新聞が言及している「株の過半数を取得」したことには全く触れられておらず、真偽のほどはわからない。
閉じる※16―「050plus スマホの通話料をおトクに変える電話アプリ」『NTT Comunications』エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(https://www.ntt.com/personal/services/phone/ip/050plus.html、2020.5.11閲覧)参照。注釈内に小さな文字で、「緊急通報(110番/119番)および3桁番号サービス(104/115等)への通話」はご利用いただけませんとある。
閉じる※15―あくまでも参考として一例を挙げれば、「確定申告書Bの書き方を解説!確定申告書AとBの違いも」『経理COMPASS』税理士検索フリー、2018.8.1(https://advisors-freee.jp/article/category/cat-big-01/cat-small-01/428/、2020.5.11閲覧)。これは、会計ソフト「freee」が運営しているウェブサイトなので、最終的には、「会計ソフトfreeeなら、項目に沿って記入するだけで会計ソフトが計算してくれるので簡単に確定申告書を作成することができます」というところに落とし込んでいる。
閉じる※14―このことに言及している記事は多数あるので、興味がある方は「ページビュー 収益」といった語句で検索されたい。
閉じる※13―中には、ウェブサイトの収益を公開して、客寄せしているウェブサイトもある。「アドセンス 今月の収益」などの語句で各自、検索されたい。
閉じる※12―秋田秀一『アドセンス申請合格の達人3日でしかも一発で審査合格した方法(Kindle版)』(サクセスキューブ株式会社、2016.6、Amazonのページへ、2020.5.11閲覧)といった本まで出版されている。
閉じる※11―これに関しても、グーグルによる報道発表はないので、確認のしようがない。
閉じる※10―Naoko Takano訳「すばらしき10年」『WORDPRESS.ORG(日本語)』2013.6.5(https://ja.wordpress.org/2013/06/05/ten-good-years/、2020.5.11閲覧)参照。
閉じる※9―「WordPressの創始者マット・マレンウェッグが来日、WordPressとウェブの未来について語りました」『Gigazine』2014.6.7(https://gigazine.net/news/20140607-wordpress-matt-mullenweg-speech/、2020.5.11閲覧)参照。
閉じる※8―アドセンスの審査方法の改変前に、無料ブログでアドセンスに登録していた人が、契約を反故にされたのか否かは、定かではない。
閉じる※7―どこがどう変わったのか、グーグルは審査の方法や内容に関して、対外的に明文化しているわけではないので、実態はよくわからない。が、多くの「アドセンス審査の通過方法」といった類のウェブサイトが、2016年3月頃から、サブドメインで申し込むことができなくなったと指摘していることから、審査方法が改変され、サブドメインによる申請ができなくなったことは確かであろう。「アドセンス審査 サブドメイン」といった検索語句で検索すると、関係記事が数多くあたる。一例を挙げれば、マサト「Google アドセンス審査での独自ドメイン化が必須に!無料ブログでは不可になった!?」『限界集落で稼ぐ』2016.6.7(https://masato1117.com/archives/1973、2020.5.11閲覧)など。
閉じる※6―グーグルアドセンスについては、「https://www.google.com/intl/ja_jp/adsense/start/」を参照のこと。
閉じる※5―Shigeyuki Yokoi「Googleの創業と発展」(p.13、SlideShare、「https://www.slideshare.net/SHIGEKIYOKOI/google-54289050」、2020.5.10閲覧)によれば、「グーグルのトップページをシンプルなまま デザイナにお金を払うお金がなかった。 結果的にシンプルさがユーザの心を魅了」したという。なお、このウェブサイトは、プレゼンテーションに用いるスライドを公開するウェブサイトであり、当該スライドには、根拠が提示されていないが、2頁目のスライドに、参考図書として『Google誕生』(イーストプレス、2006.6)が挙げられていることから、この文献に記載されていると思われる。孫引きで申し訳ないが、文献調査が完了次第、改稿することにしたい。
閉じる※4―伊草淳「第4回 Google Adwordsも分析できるGoogle Analytics」『MarkeZine』、2006.9.26(https://markezine.jp/article/detail/222、2020.5.10閲覧)で、2006年当時のグーグルの検索結果画面を再確認した。
閉じる※3―京大式カードについては、Wikipedia「京大式カード」2014.5.23最終更新(https://ja.wikipedia.org/wiki/京大式カード、2020.5.8閲覧)をはじめ、ブログなどでも数多くの人が紹介している。中でも、ほぼ日ニュース「「ほぼ日」の父。『情報の文明学』を書いたウメザオタダオの見ていたもの。」2011.5.10(https://www.1101.com/news/2011-05-10.html、2020.5.8閲覧)は参考になるので、あわせて参照されたい。なお、京大式カードは、いわゆる情報カードなので、商品として紹介しているウェブサイトも多い。電子化が進む現在、使う意義がどこにあるのか、情報整理の方法を含めて考えていく必要があるだろう。
閉じる※2―英語のdigital divideのこと。『精選版日本国語大辞典』参照。
閉じる※1―インターネットとは、コンピュータ相互をつなぐための地球規模のネットワークのことである。これに空間をつけることで、ネットワーク上のコンピュータやサーバ、さらには膨大な量の情報などが存在している場所全体を指すことを意図している。インターネットが登場した当初、耳にする機会が多かったネット・サーフィンとは言い得て妙で、ハイパーリンクと呼ばれる、インターネット空間の住所ともいうべきURL(Uniform resource locator)が付された文字や画像を、クリックすることによって、その住所にある情報を表示することができ、このハイパーリンクを通じて、様々な情報間を飛び回ることができることを指している。このように、情報が置かれているサーバの物理的距離を意識することなく、瞬時に移動できることから、サイバー空間や仮想空間などといわれることもある。
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